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いぬのはなし 200×年
汚いものに憧れる。などとアウトロー気取るつもりは毛頭ないが、やたらと小奇麗になる都市を目の当たりにするにつけ妙な違和感を感じる今日この頃。わが町高円寺もその例に漏れず、駅ビル建設を中心とする再開発計画を着々と進行させている。

 駅に入ったオシャレなパン屋、レンガ作りに舗装された道路、昔からあったかばん屋はさっぱりとしたハウスマヌカンの経営するブランドショップに様変わり。
深夜に半裸で喧嘩しても、駅前広場で『ルパン三星』を大音量で演奏してもスルーしてくれた警察も、道で放屁した刹那に逮捕と叫びそうな小奇麗ファシズム。

 酔っ払いながら夜の高円寺をふらふらしてると、北口駅前広場で男が叫んでいる場面を目撃。面白そうなのでふらりふらりと接近して、近くのベンチに座り煙草に火をつけ携帯メールを打ちながら、実際は耳年増。なにいっとんねん、あいつらはと。

 別に男の独りで叫んでいるワケではなくて、女を向こうに演説をぶっている。


 男:だから、なんでわかってくんないんだよ!こんなに好きなのに!俺を見てくれよ!

 女:………

 男:何とか言えよ!

 女:………ごめん………

 男:…………
 

 うわ修羅場。最高。素敵な暇つぶしと酔い醒ましを発見したようだ。にんまりしていると、男はさらにエスカレート。


 男:ずっと好きだって言ってくれただろ!?あれは嘘だったのかよ!?

 女:…………本当にごめん……

 男:……俺たちもうダメなのかな?

 女:………(泣き始める)……

 男:俺、お前のことが好きだよ。もう一回やり直そうよ。

 女:……

 
 まるであの「マドレーヌ」のように、俺の心の奥底に眠る失われた時を呼び起こすセリフだった。

 好きなだけじゃダメなんだよ

 好きなだけじゃダメなんだよ

 あの時言われたセリフだった。好きなだけで全てが許されると思っていたあの頃の俺が、初めて恋愛の現実にぶつかった時に遭遇した言葉。
 
 あれから年と重ねて行きつ戻りつ大人の階段を昇ってきたけど、それなりに恋愛をして好きなだけじゃダメだ、なんてことも分かってしまったけど、
 それでも、俺は呟いてしまった。


 『好きなだけじゃダメなのかよ』


 もう一度言ってみた。


『好きなだけじゃダメなのかよ』



 気がついたときには遅くて、男も女もこっちを見ている。ポカンとして。俺とその崩壊寸前のカップルはしばし見つめあい、その合間の時間を電車(おそらく終電)が通過する、がたんごがたんごという音が埋めて、女が会話にふたをした。


 ダメなんです。


 ダメですか。ダメなんですか。そうですか。こんな見ず知らずの男に向かって、ダメなんです、なんて言わなくてもいいでしょ。そりゃ聞いたのは俺だよ。けど、ダメですって…

泥酔の俺はいじけて、納得できなくて、今度は女に問いかけた。

 『好きなだけじゃダメなのかよ』


 女は気の毒そうに俺を見て、次に男を見て、立ち上がって駅とは反対側に向かって歩き出した。
 あ、と男も立ち上がり女を追いかけた。と、後ろを振り向いて、酔っ払い!と叫んだ。

 あいつ振られたかなあ。なんとかいけそうな気がするのだけど。と、考えるのも夢見がちなだけかな。

やっぱり、好きなだけじゃダメなのかな?

また、好きなだけじゃダメだと言われてしまうのかな。
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