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いぬのはなし その後
 賑わうクリスマスを横目に、渋谷から山の手に乗ってやり切れない気持ちを抱えながら原宿、代々木を通過して新宿へ。歌舞伎町はいつでもネオンで飾られていて空虚だけど、その分入り込む隙間があるのだと錯覚できるからホストに貢ぎ、キャバ嬢に貢ぐ人間が現存している。誰でも受け入れる振りして誰も受け入れない歌舞伎町のくせに。


 
 コマ劇場、ラブホテル通り、バッティングセンターを抜け、ルンペンが集まる公園へ。夜になるとルンペンを公園から締め出すために新宿区は公園を封鎖する。ルンペンは壁を乗り越える。新宿区は見ない振りをする。ルンペン対策は完璧との見解です。



 ルンペン数人は公園内でキャンプファイアーをしていた。メリークリスマスを浮かれるのでもなく、斜に構えて飲んだくれているのでもなく、ただ火を囲んでいた。俺は暖かそうだなあと遠目からじっと見てて、それを一人のルンペンが目に留めて、しっしっとやる。それでも無視して見てやるとルンペンが近寄ってきて、なんで見てると聞きおるから、アンタらが暖かそうだから見ておったと言うと、入れと言いおる。入った。歩くルンペン。ルンペンの後に付いていく俺。に一言、家があるからって暖かいわけじゃねんだよな、とルンペンが言いおる。俺、無言。



 誰も俺を見やしねえし、招き入れたルンペンは紹介もしねえ。居心地悪いなあオイ。どないすんねん。座ってタバコ喫みながらルンペンの出方を伺い、ルンペンは無言。ただ酒をちびりちびりとあおってはげっぷしてあくびするだけ。帰りてえ。



 ひげもじゃのルンペンがキャンプファイアーの近くのラジカセをガチャリガチャリいじりってラジオをつけると中島みゆきの『時代』が流れた。


 
 そんな時代もあったねと

 いつか話せる日が来るわ

 あんな時代もあったねと

 きっと笑って話せるわ

 だから今日はくよくよしないで

 今日の風に吹かれましょう


 ルンペンが歌い始めた。降り始めた雨がアスファルトに付ける足跡に似てぽつり、ぽつりとしたものだったが、サビを前にして全員の声が揃った。


 まわるまわるよ 時代はまわる

 別れと出会いを繰り返し

 今日は倒れた旅人たちも

 生まれ変わって歩き出すよ

 今日は倒れた旅人たちも

 生まれ変わって歩き出すよ


 楽しそうなルンペン、悲しそうなルンペン、大声で歌うルンペン、無言のルンペンといろいろいた。同じ歌を歌っても考えることはそれぞれだ。どいつもこいつも過去を想い涙を流していた。俺だけ流す涙も想う過去もないから帰った。俺なんかがいていい場所じゃない。まだ何かに挑戦してもいないし、成功してもいない。中途半端な失敗なら山ほどあるけど、そんなもんゴミの山であって意味はない。失敗に意味を見出せるのは、失敗を糧に成功した者だけだ。何事かを成し遂げなくてはいけないという強迫観念めいたものから解放されるのがいつになるかわからないけれど、どうも収まりが悪い人生にそろそろおさらばしたい。

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