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リアリティ
 きみふさ君は、テレビが大好きだ。もっと正確に言うと、彼はテレビに現れるヒーローと呼ばれる人々に興味がある。特に彼がいま最も興味があるのは、そのヒーローたちの過ごす日常生活についてであり、彼はいま懸命にそれについての妄想をめぐらせているところである。
 一週間のうち、厳選され抽出された30分を彼はブラウン管越しに享受することができるわけだが、残りの167時間と30分にヒーローたちが存在しないとは彼は考えられない。彼に降り注ぐのとまったく同じくヒーローたちにもその167時間と30分は降り注いでいるはずだ、というのが彼の言い分だという。

 因みに、お母さんはその167時間と30分は存在しないのよ、と彼を諭した。いや、諭そうとしていた。それをきいた彼は少し考えてから「でも、それじゃ、お洋服をたくさん持っていなくてもいいし、お風呂で髪を洗うのも少なくていいかもしれないけど、でも、やっぱりちょっとかわいそうだと思うよ、僕」といったきりだった。
 まったく存在しないこと、空白。しかし彼はまだその概念を上手に理解できなかったので、僕はその前段階として彼にグレーという概念を教えてあげようと思った。
 僕に言わせるなら、彼はいままさに、初めてマイナスという概念を算数に導入したような感覚なのだろう。存在するところを大前提として具体的な話ばかりをしてきたせいで、本来備わっていた柔軟性が少しその役割を忘れかけていたのだと思われる。だから彼は非常に上手に細かく細かく分解することができる一方で、ひっくり返せることを信じられずにいた。僕らの瞳は上下さかさまに世界を映し出しているという事実にもかかわらずに(これも忘れかけられたことだ)。

 今、彼はそのテレビを見ているところだ。コマーシャルメッセージの間にコップに並々とオレンジジュースをついで、駆け足で戻り、二人がけのソファーを独り占めしている。
 そうこうしていると、ニュース速報で地震情報が流れた。震源地は少し遠いようだったが、震度は結構大きかったように記憶している。しかし、きっとその情報は彼にとっては疎ましい不純物でしかないと思っていたのだがどうやらそうでもないらしい。不安そうにして、窓から死角を覗こうとするようにしてテレビに近づいて、隅から隅までを舐めるようにして見つめている。どうしたの、と僕が聞いてみようか迷っていると、彼はポツリと言った。

「今日はずいぶん遠くまで行っているみたいだね」

 彼にとって、これ以上現実的なものはないのだ。
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