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一瞬と半永久と永久と
 ホームでいつも見かける人が居た。

 私はいつも帰りが遅いのだけど、彼は向かいのホームのプラスチックの青い椅子に座っていて、人が少ない分やさしくなれる気がするこの時間を生きる特典でも得たかのように嬉しそうにしていて、首からぶら下げた古めかしいカメラを大事そうに膝の上に置いては触れ、触れては置いている。
 服は流石にずっと同じものではないけれど、被っているベージュのチューリップハットとカメラと目の隠れた笑顔はいつも変わず其処に在る。あ、でも比較的、昔流行っていたというベルボトムを穿いていたようにも思う。

 彼を意識し始めたのは3日前だった。彼が私を撮ったのだ。いや、これだけだと誤解を生むだろうな。誤解はしないで欲しい。彼はちゃんと私に許可を求めたのだ。ちょっと変わっていたけれど(これは多分褒め言葉になってくれるんじゃないかと、内心少し期待している)。

 私がホームに下りると既に彼はいつもの位置に居た。今日もベルボトムだった。目があった気がした。気のせいかと思っていたら本当に目が合った。彼は会釈する。私もぎこちなくそれに答える。さりげなく見渡すが、ずっと先のほうの自動販売機の傍に若いカップルが居るだけで、私たちを見つめる目は無いように思えた。次の瞬間、彼はカメラを片手に持つともう片方の手でそのカメラと私とを交互に指差した。そして疑問の仕種。
 思わず自分を指差してしまう。わたし?厭な気はしなかったけれど、純粋な神秘が私を包んでいた。彼はもう一度その動作を繰り返す。ゆっくり、ゆっくりと。まるで忘れ物をしないように自分に問いているかのように。

 私はもう一度周りを見回してから、ゆっくり頷いた。

 彼は帽子と口と頬とで笑い、「どうぞ」とでも言うかのように右手を紳士的に動かした。ふと自分の居る方のホームを見やると、彼の手の先にあるのは彼が座っていたのと同じ、5つ続きの青い椅子だった。
 私は少し迷いながらも真ん中の席に腰を下ろした。ハンドバックは膝の上。目線は…と考えて彼のほうを見たらちょうどシャッターがきられた。

 ウィーン。

 ポラロイドカメラだ。

 彼が深々と丁寧にお辞儀をするやいなや、ものすごいスピードで電車がやってきた。おかしいな。この時間はもう各駅停車だけのはずなのに。あれじゃまるでジェットコースターだ。
 横からの闖入者が過ぎ去った後、彼はもう居なかった。おかしい。

 衝動に突き動かされ、架かる連絡通路を通って彼のホームへ行ってみた。

 案の定、ポラロイドで撮られた私の写真があった。
 裏に油性マジックで「ありがと」と書いてあった。

 そういえば、彼には以前何処かで出会ったことがあったような気もする。
 また思い出したら、話してあげるわね。
 
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| キーE璽 | 2008/08/03 8:37 AM |

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| キーE璽 | 2008/08/04 10:12 PM |

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